人には
それぞれその人が置かれた諸々の環境というものがある
社会や家庭、会社、その人を取り巻く人間関係など
境遇とは 自分にとって良いとか悪いとかの類のものではなく
自得するもの であることが分かってくるのも
歳のせいだろうか
人間も年寄るにしたがって
容色は衰え うわべの飾りは役に立たなくなって
その人の真実の我が 隠すところなく現れてくる
誠に人の晩年は一生の総決算期で
その人の真価の定まる時でもある
名誉や利益や色欲に熱中し
人に勝とう しのごうと焦り
いかり ねたみ悶えるようなことは
この晩年になって段々雲や霧のはれるように 薄らいで行くもの
早年から中年、晩年と
一生を通して自得することは
「素」である
組織の中には
言われたことしかやらない 言われたこともできない
言われた以上にやる やらなくても良いことをやる
などいろいろな人がいる
分相応に風が吹く
与えられたところや立場であらゆる知恵を尽くし 必死になって努力をする
どんなに辛く苦しんでも 所詮それらは自分の範囲内の事
成し遂げてこそ そこに自分の位というものができあがる
素行自得の生涯でいい
「素」という漢字
染めていない絹 白絹のこと
飾りけがないことの素質 生地のままで手を加えていない素材
ものごとを成り立たせるもとの素地
「行」にこれらの「素」がつく「素行」の意味は深い
利害や意見や年齢や地位身分など
そういうさまざまな世間の着色に染まらぬ生地のままの純真な心を
“素心”という
人を看る(よく見る。注意して見る)にはただ後半生を看よ （菜根譚）
